核四極共鳴(NQR)の実験
                                                ・・・・ 原子核のささやき声を聴く



  核スピンの値が1以上の原子核は、スピンによる双極子モーメントに加え、四極子モーメント(電気四重極モーメント・テンソル ・・・ 原子核が電荷分布を持ち分極している)をもつ。
  核四極共鳴(NQR(nuclear quadruple resonance)は、窒素(14N)、ナトリウム(23Na)、アルミニウム(27Al)、塩素(35Cl、37Cl)、 ヨウ素(127I)、重水素、アンチモンなどの、核スピン≧1の原子について、その核自身の持つ 四極子モーメント qエネルギー準位が、結晶内の電場勾配 φ’’程度に応じて分裂し、それらの積(q・φ’’)に比例する周波数の電磁波をやり取りする共鳴現象である。

   原子核に この共鳴周波数 ν0 の電磁波を当てると、核のエネルギー順位が上がり 熱的に準安定状態になるが、ここで電磁波を切ると、(核磁気共鳴(NMR)と同様に)周りの電磁ゆらぎや熱ゆらぎによる「緩和現象」が起こり、時間と共に元のエネルギー準位に落ちるときに電磁波を放出する。
  そこで、大掛かりな磁石の要らない NQR(核四極共鳴)の実験を、この”パルス法”で行なうことにする。

  *  NMR(核磁気共鳴)と違って、結晶内に電場勾配が存在するので、エネルギー準位を分裂させるための外部磁場は不要.。 NMRでも、鉄(フェライト)などの自発磁化する元素は磁石無しで共鳴する。
  ** NQRは、NMRと異なり、結晶内の電場状態によって共鳴周波数が大きく変動するので、同じ原子核でも 化合物によって中心共鳴周波数が異なり、それぞれの化合物を検出・同定することができる。 特に、窒素14N: 核スピン 1、 0.6〜6MHz程度)、塩素(35Cl、37Cl: 核スピン 3/2 、 30MHz前後)を含む有機化合物(爆発物や麻薬など)の、遠隔非破壊検出器が開発されている。



  (1) NQR測定装置の整備:


  パルス法の原理は、印加する電磁波(周波数 f )と、それを切った後に緩和によって放出する電磁波(周波数 f’)との ビート(周波数 f − f’)を、検波・増幅することによって観測するものである。 強い電磁波の中に混じるわずかに周波数が低い微弱な電磁波を検出するので、参照信号の位相(フェーズ)をシフトさせてmix することにより、検出信号に含まれる入力信号成分を打ち消すなどの工夫が必要となる。

 


  ここで、核磁気共鳴用 送受信器の作製 2.、3.で作製した装置を改造する。

  @ 送信部:

  ・ 電磁波を試料に印加するための 発振基板の発振コイルを、モノコイルから(シールドされている)FCZコイル(28MHz)に変更して 周波数を安定させる。(4桁以上)
  ・ PICに再入力して、パルス変調周期を 約40mS、 パルス幅を 約0.4mSに設定する。(100 : 1)
  ・ パワーアンプの終段タンクコイルの巻き数を 6T、タップ 3Tとし、約30MHz仕様とする。
  ・ パワーアンプの出力部のVCは 同調用(100pVC)のみとし、双方向ダイオード(ES1D×2)も取り去り(or 短絡)、直接500V・0.01μFセラコンから出力する。(マッチング用VCは不使用)

  A 受信部

  ・ フェーズシフタを取り去り、l=約30cmのφ3mm同軸ケーブルで位相をシフトさせ、余分な信号を打ち消すための参照RF信号をDBMに送る。 ・・・ ノイズ幅を最小にする
  ・ DBMとAFアンプをつなげる ローパス・フィルタを取り去り、ショットキー・ダイオード(1SS106×2)で検波する。 ・・・ 最も鋭く検波できる

  B NQR測定部

  ・ 出力コイル(φ18、巻き数 6T)の 4T からタップを取り、10W10Ω電球につなげ、出力エネルギーの流れを作りマッチングさせる。(同時に、電波障害対策になる)
  ・ 同調VCを 30pFVC + 79pF(47p+22p+10p)(= 28MHz用)に変更する。

  以上の変更をした上で、試料: 塩素酸カリウム(KClO3)の粉末を 検出コイル(φ10、3T)(同調出力コイルと直交させて巻き、磁力線が入らないようにする)と共に、試験管(l=16.5mm)に挿入してセットする。 (KClO3の共鳴周波数は、約28MHz)



 



  (2) 塩素原子核の測定結果:


  試料として、塩素酸カリウム(KClO3): 35Cl(存在比75.77%、中心共鳴周波数 約28MHz、核スピン 3/2)、37Cl(24.23%、約22MHz、核スピン 3/2)、モーメント比 37/35 = −0.062/−0.079、 を用い、存在比の多い 35Cl の方を測定した。( 注) 塩素酸カリウムは強力な酸化剤なので、有機物などの可燃物を決して混入しない事

  (測定法) * 電波障害注意!

  @ 周波数カウンタを見ながら 発振周波数を28MHz前後に合わせる。
  A 発振器を”連続”にして、パワーアンプをONにし、ダミー電球が最も光るように、パワーアンプの同調VC と NQR測定部の同調VCを調整する。 このとき、オシロの ch 1 の波形が きれいな正弦波で、なおかつ振幅が最大になっている事を確認する。
  B 発振器を”パルス”に切り替え、試料 + 検知コイル の入った試験管をコイルに差込み、オシロの ch 2 を 50mV〜0.2V、50μS〜2mS 程度にセットする。
  C 発振器のVCをゆっくり回す。 共鳴周波数付近になると”減衰振動(FID信号:free induction decay、自由誘導減衰)”が ch 2 に現れる。(* 位相反転が不完全であっても、検波により、FID信号を見ることができる。)
  D 減衰振動の山の1、2番目の間隔(=減衰振動の周期 T)を読み取る。また、中心周波数 0 (ゼロ・ビートになる所)、減衰振動の1番目の山の高さが中心周波数の時の約半分になる上下の周波数を、それぞれ読み取る。(上下の周波数の差 = 周波数の半値幅
  E 測定が終わったら、パワーアンプの電源を切る。

   

  (測定結果)

  ・ パルスを切った直後に現れる減衰振動の 周期、中心周波数、周波数の半値幅はそれぞれ、 T = 0.5mS、 0 = 28.08MHz、 = 約100kHz だった。 (塩素は核スピンが3/2で多く分裂するので、そのNQRはやや複雑で、27MHz台にも共鳴吸収が見られた。試験管を離すと信号が出なくなるので、明らかに異常発振ではない。)

  * FID信号を fitting して、指数型減衰振動の式( −αt sinωt )、あるいは、ガウス型減衰振動の式( −αt sinωt )として フーリエ変換しても 半値幅刄ヨが得られる。 励起した核四重極モーメントへの相互作用が大きく、速く減衰する(= αが大きい = 緩和速度:R が大きい)ほど、ω = 2πピークの半値幅が広くなる。(温度を上げて 熱揺らぎが大きくなっても、速く減衰する)

  ・ KClO3と検知コイルの入った試験管を 測定部の共振用コイルに近付けるだけでも、この減衰振動が現れるので、送信機のパワーを上げ、受信部の感度を上げ、コイルなどの工夫次第で遠隔検知が可能になると思われる。

   

  * 残念ながら、上記の波形のFID信号らしきものはパルスを切るときの回路による過渡現象ノイズで、本当のFID信号は、もっとゆっくり減衰するビートそのものでした。 中心周波数0 = 28.08(MHz)は正しく出ています。(文献値: 28.09MHz at.25℃、温度によって大きく変動します。)



  (参考)  窒素化合物のNQRについて:

  爆発物や麻薬にはほとんど必ず窒素原子核 14N が含まれている。 14N(核スピン=1)のNQRは、比較的低い周波数で共鳴(TNT: 850kHz、 RDX: 3.41MHzなど)し、特に、含まれている ニトロ基(−NO2)の窒素原子核に作用する。 したがって、入手しやすい 亜硝酸ナトリウム(NaNO2)で測定しても同様の 14N - NQR (0 = 4.647MHz(25℃)) の実験ができる。
  空港の手荷物検査などで、10cm程度の遠隔検出ができる非破壊検査機が開発されている。 (→ 参考HP




    § 自然の不連続性 と 確率性について:


  量子力学の2大性質は、1.確率性 と 2.波動性 です。 光子も、電子も、陽子と中性子で成り立つ原子核も、すべての物質は量子力学に従います。

  古典力学でも複素数が現れることがありますが、それは便宜的なものであり、すべて実数で表すことができます。 しかし、物質の水面下にある 波動関数(=確率振幅)ψは、本質的に複素数である必要があります。 波動関数が複素数であることから、”不確定性原理”
    が導かれました。


  自然の不連続性は、波動を記述する指数関数の多価性から与えられます。
  水素原子の軌道電子について、磁気量子数 m は、固有関数 について、その多価性から Φ(φ + 2π) = Φ(φ) を要求すると、
  m = 0、±1、±2、 ・・・  として規定されます。 これから 方位量子数 l = |m|、|m|+ 1、|m|+ 2、・・・、主量子数 n による不連続性が導かれ、逆に、 n ( = 1、2、3、・・・)を指定すると、 l = 0、1、・・・、n−1、 m = −l、−l + 1、・・・・、l −1、 l  のように自動的に導かれ、その上限、下限が決まります。
  ところが、実はこれはきつすぎる条件であって、”完全系”を成すベクトルを結びつける行列要素の φに関する部分は、  の形であり、
  φを 2π だけ回転したときに要求される条件は この行列要素の不変性のみなので、 Φ(φ + 2π) = ± Φ(φ) であればよく、
  Φimφ において、 m = ±1/2、 ±3/2、 ・・・・ も許され、すなわち これは、スピン量子数を表しています。(* スピンは、相対論的量子力学の ディラック方程式( → 場の量子論の概略(1)の3. )から導かれるだけではありません。) このように、核スピンの状態も、指数関数の多価性が根本的な原因となっています。


  状態と状態とを重ね合わせたものもまた、その同じ対象のとりうる状態の一つである場合、重ね合わせの原理が成立しているといいます。
  この 重ね合わせの原理は、元々 1つの線源(光源、発振器)から発せられた中性子、レ−ザー光、電磁波などの波動が 再合成されるとき、すなわち、”純粋状態”(コヒーレントな状態)であるときに成立し、1つの状態ベクトルとなります。 したがって、個別の波動は、その運命を予知しているかのように振舞います。 しかし、異なる2つの線源から合成すると、位相が乱雑であり 1つの状態ベクトルを作ることができません。(”混合状態”) ( → 観測問題
  上記の、発振基板からの信号を、位相を調節してDBMで混合して打ち消し合わせるのも、電気回路上で重ね合わせの原理が成立していることによります。


  量子力学が予言できるのは、状態のあらゆる可能性についての測定値の実現確率までであって、一つ一つの粒子の振る舞いについて予想するものではありません。水面下の波動関数による、複素数の、一意的、必然的な、あらゆる可能性は、現実の現象においては、実数の、確率的な、偶然的、非因果的な観測対象となって現れます。 すなわち、これが ”確率性” ・・・・ 20世紀に明らかにされた 人間が知る限界の一つです。  (* ”隠れた変数理論”などの実在論は、20世紀末までに行なわれた実験によって ことごとく否定されました。 → 2光子偏光実験 と 遅延選択実験



  すべてのことが 唯一の神から発せられ、神は 時間を超えて初めからすべてをご存知であり、神の言葉がすべてのことを成し遂げ(イザヤ55:11)、「創造」、また、「再創造」していきます。 神様の御前では、すべてのことがすでに「完了」(ヨハネ19:30)しています。 一方、神様以外から出た言葉は 何事も成就しません。
  そして、天地万物を造られた神様は、このような”確率性”、”不確定性”という 人間の理性で決して知ることができない環境の中に人間を置かれ、神様を信じる「信仰」(ヘブル11:1)を重んじられるようにすべてを設定されました。




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